【レビュー】おすすめのイヤホン:SONY IER-Z1R
SONYのハイエンドイヤホンIER-Z1Rは独特の構成を持っています。低域から中域を12mmのダイナミックドライバーが、高域をマグネシウム振動板のバランスドアーマチュアドライバーが受け持ち、さらにハイレゾ領域に属する超高域を5mmのダイナミックドライバーが分担するという、あまり類例のないハイブリッドイヤホンに仕上がっています。
ビルドクオリティは非常に高い
材質感は異なりますが、一見するとXBA-N3のような印象を受ける外観です。XBA-N3とは違い、形状はシュア掛けスタイル向きになっており、ジルコニウム合金の高級感溢れるハウジングで見た目の豪華さに差がありますが、しかし細部には確かなSONY製品の血脈が受け継がれています。
ビルドクオリティは非常に高く、持てば手に吸い付くように馴染み、耳に合わせれば緩やかに耳穴に収まる突起形状がノズルを正確に鼓膜の位置に持ってくるでしょう。ケーブルのプラグ、ケーブルの被膜にさえ高級感があります。
真の一流オーディオメーカーがフラッグシップを作ると、それはもはや美術品として鑑賞の対象にさえなるのでしょう。
音質
まず、このイヤホンは40Ωというインピーダンスを持ちます。これ自体は価格帯でさほど高すぎる値ではありませんが、32ΩのFAudio Majorと比べて、よりパワフルなアンプを必要とするようです。僕の勘違いでなければ、SONY NW-WM1Aのような、10万円台クラスのDAPでないと、いささか音の活力に不足を感じる気がしました。
低域に関してはまずSONYらしいと言うことができると思います。SONYの製品は低価格品から高価格品まで独自の低域哲学を持っているように思われます。多くの製品は重低感のある鳴動が強調され、中低音は少し穏やかに調整されています。少し厚ぼったい、しかし下では熱気を持ったSONYの品のある低域はこのイヤホンでも再現されています。
先に高級DAPでなければ活力不足を感じると言いましたが、その最大の原因がこの低域と中域を受け持つ12mmのダイナミックドライバーにあるように思われます。とくに低域はDAPのパワーが足りないと充分に弾みを持つ音とならず、音像の明瞭さを失いやすい印象を受けます。パワーの足りないDAPで聴くと、少しボーッとした音に聞こえますが、適切な能力のDAPで聴くと途端に活き活きとし、音像に張りが出てきて分離が良くなった印象を受けるようになります。SONY独特の厚ぼったい低域は下では熱気のある鳴動を、上では落ち着いて理性的なイメージングに優れた音を提供し、力強さを内に秘めながら紳士的で礼儀正しい音に聞こえます。しかし、もしかすると同じ価格帯では情熱的なVictor HA-FW10000の低域により大きな魅力を感じる人がいるかも知れません。
ミッドレンジは実にゆるやかに低域とつながっているようです。低域上部の紳士的な表情を受け継いで、高域や低域に比べると中域はいささか温和な印象を受けます。男性ボーカルや弦楽は少し沈みがちです。パーカッションは元気に音を奏でますが、主張の強い感じではありません。むしろ自然な音色と広大な広がりを持つ音場の中に、解像度を丁寧に出すニュートラルな空間が広がっています。
穏やかな田園を思わせる中域を抜けると、現れてくる高域は途端に鮮やかで精彩に満ちていて、煌めいています。そこは全く都会的な空間です。繁華街のネオンのように、きらびやかな輝きを持つ音は、しかし驚くべきことになめらかで耳当たり良く抜けていきます。高域の存在感はかなり圧倒的であるにも関わらず、摩天楼のように上にしなやかに伸びていて天井を感じさせません。僕はこの驚くべき高域の精彩を、にわかには信じられませんでしたが、おそらく現状であらゆるイヤホンの中で最高クラスの高域がそこに存在していることだけは、はっきりと断言できます。
さて、イヤホンはたしかに現状最高クラスの表現を持っていますが、先行するレビューを読めば、その評価は単純に高くはありません。その理由は比較的分かりやすいので、最後に紹介します。
単純にDAPのパワー不足で魅力を感じないということはあり得ます。とくに低域の解像度を感じるためにはパワーが必要です。
低域や高域に比べて、このイヤホンの中域は難解です。主張が強くなく、男性ボーカルや低い位置の女性ボーカルはあまり際立った印象を与えません。つややかさには欠けます。
高域の煌びやかさはやや粒立ちが強く、温和な中域からトンネルを抜けたかのような眩しさがあります。これをバランスが悪いと感じる人もいるでしょう。丁寧に目立たないように調整されていますが、中域との音の質感の差に少し不自然なところを感じる人はいると思われます。
コストパフォーマンス
この価格帯ではコストパフォーマンスを語るのは不可能に近いです。イヤホンに20万円も出す人にまともな金銭感覚があるわけがありません。このイヤホンは上質な音を奏でるアクセサリーであり、音に囚われた変態のための製品です。変態度の高さで言えば、間違いなく最高クラスのイヤホンでしょう。SONYのアホがどんな顔してこのイヤホンを作ったのか考えるだけで、オカズにできる一級品の変態です。
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